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広島高等裁判所 昭和44年(く)12号 決定

少年 M・O(昭二五・九・四生)

主文

原決定を取り消す。

本件を広島家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、記録編綴の少年提出の抗告申立書、ならびに附添人弁護士小中貞夫提出の抗告申立補充書の各記載のとおりであつて、その要旨は、本件は少年を含む数人の共犯少年による集団非行であるところ、右非行のうち悪質とみられる輪姦事件について、主導的役割は勿論のこと、姦淫自体もしていない少年に対し施設収容の処分をしたことは、他の共犯少年らとの処遇の均衡を著しく失し、また、少年自身の非行性も従来の処遇歴に徴しさほど深化しているものとは認められない点よりして、少年を中等少年院に送致した原決定には処分の著しい不当がある、というのである。

そこで、本件少年保護事件記録ならびに少年調査記録、および当審で取り調べた資料によつて検討するに、少年の本件非行は、少年が共犯少年五名と共謀のうえ、夜間二名の若い女性をドライブに誘うとみせかけ、車に同乗させて山奥につれて行き、集団で輪姦し、その際、同女らの所持金を窃取した事案であつて、その罪質、態様、被害者らに与えた影響等を考慮すると、極めて悪質な行為というのほかなく、また、広島少年鑑別所の鑑別結果通知書によれば、少年は、自己中心的、軽佻淫薄な性格の持主で社会逃避機制の強いことが窺われ、その交友関係も必ずしも良好といい得ないことと相俟つて、原決定が少年を中等少年院に送致したことも、あながち理解しえないわけではない。

しかしながら、本件非行のうち処遇決定に直接重要な関係をもつのは、輪姦の事犯であり、この点について少年の果した役割、地位等を検討するのに、本件犯行現場で被害者らに殴打暴行を加えて姦淫の実行行為に着手したのは、共犯者A、Bの両名であり、右Aが被害者○木を、Bが被害者○野をそれぞれ暴力づくで姦淫し、続いて他の共犯者C、D、Eが順次右○木を輪姦したものであつて、これに対し少年は、当初右犯行を提唱したものの、現場にあつて被害者らに何ら手出しをせず、姦淫行為自体もしておらず、しかも、右共犯者の所為は、輪姦を提唱した少年にたやすく賛同した共犯者ら自らの意思選択による姦淫行為であるから、右共犯者らのごとく、現実に姦淫したものに比すれば、少年の責任自体は軽減されるのが相当であつて、右の事情は、少年の処遇を決定するにあたり、看過してはならないところである。次に、共犯の少年に対する処遇との均衡を考えてみるのに、現実に姦淫した共犯者五名のうち四名は在宅保護(保護観察)の処分をうけており、同人らには従前非行歴がない反面、少年は中学三年時同窓の中学生が他校の中学生に殴られた仕返えしとして、同窓中学生数人と共同して暴行を加えた事案で不処分の決定を受けた前歴があり、また、前記輪姦事件の際、共犯者らの姦淫中に被害者のハンドバックや着衣から現金を窃取し、あるいは、懐中電灯を照らして被害者らの陰部をのぞくといつた常規を逸した行動をとり、その犯情に許し難い一面のあることは否定できないが、これらの事情を考慮に入れても、姦淫行為に出なかつた少年を施設収容処分に付しながら、却つて姦淫行為をした右共犯者らを在宅保護処分にしたことは、処遇の均衡を失したというそしりを免れないものがある。しかして、少年は前件処分後格別の非行もなく経過しており、その生活態度にはやや真剣味を欠くものがあり、本件共犯者らとの交友関係にあつても、プレイボーイとしての主導的地位にあつたごとく看取されるが、これらは多分に少年の派手な性格が災いしているものであつて、要保護性の程度が特段に深化しているものとは認められず、また、原決定指摘の家庭における保護能力の不十分な点も、社会資源の活用によつてこれを補いうるものというべく、未だ在宅保護の手段による矯正の可能性はのこされているものと思料される。以上に述べた各般の情状を勘案するとき、少年を中等少年院に送致した原決定は、その処分が著しく不当たるを免れない。本件抗告は理由がある。

よつて、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により、原決定を取り消したうえ、本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 浅野芳朗 裁判官 久安弘一 丸山明)

〔編注〕 受差戻家裁決定(広島家裁 昭四四(少)一五〇二号 昭四五・三・六決定保護観察)

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